青りんごの本棚

中学生・高校生におすすめの本をあつめています

ジャン・ジオノ『木を植えた男』

 

木を植えた男 ジャン・ジオノ

どんな大きな森も、ひとつひとつの樹木からできている。

戦争で荒れ果ててしまった土地に、たったひとりでどんぐりを埋め続けている男がいた。どんぐりはやがて立派なカシワの木となり、荒れ地に緑をよみがえらせていく__。ひとりの男の半生を描いたノンフィクションのような物語。

 

木を植えた男は実在したか?

 

主人公は旅先で、荒れ地にひとつひとつどんぐりを植えて森を作ろうとする男と出会う。物語のような曖昧さと、現実のできごとのような説得力のようなものがあり、フィクションなのかノンフィクションなのかわからない不思議さがある。

果たして、物語に登場する男「エルゼアール・ブラィエ」は実在するのだろうか?その答えとなる、この物語に関する面白いエピソードがある。

 

この作品は、ジャン・ジオノがアメリカの出版社から依頼を受けて書かれたもので、テーマは「これまでに出会った、いちばん忘れがたい人物」について。そうして出来上がった作品を読み、編集者はこの人物が実在したのかどうかを調べたという。

 

編集者が注目したのは、物語の終わりに書かれたこの文章。

 

「一九四七年、エルゼアール・ブラィエはバノンの養老院において、やすらかにその生涯を閉じた」

 

編集者が調べたところ、そのような事実はなかった。実在の人物についての原稿を依頼した出版社は、約束と違うとこの原稿をジオノに送り返した。その後、ジオノはこの作品の著作権を放棄し広く公開したところ、この作品が「ヴォーグ誌」の目に留まった。1954年にヴォーグ誌で掲載されたことをきっかけに、世界中で読まれる作品となった。

現在では20か国語以上に翻訳され、フレデリック・バックによってアニメーション映画化もされている。

 

フランス文学作家・ジャン・ジオノ

ジャン・ジオノは20世紀のフランス文学を代表する作家である。16歳で銀行員として働き、第二次世界大戦中には、徴兵制度への反対運動で逮捕されるという経歴を持つ。戦争に反対する強い姿勢は、この物語にも反映されている。

最後に、感性について語るジオノのこんな言葉を紹介したい。

「感性とは、ばたに湧き出た泉のようなものだ。それを飲まぬ者は永久にのどの渇きを癒せないだろうし、それを飲むものは自分という作品を心ゆくまで仕上げることになるだろう」

おすすめポイント

◇すぐ読める短いおはなし

◇年齢問わずおすすめ

◇朝読書や読書感想文にもおすすめ

◇贈り物にもおすすめ

◇絵本・単行本など、さまざま出版

◇映画化

ジャン・ジオノの死後1987年にフレデリック・バックによってアニメーション映画化される。アカデミー賞アニメーション短編映画賞ほか、多数受賞。

 

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木を植えた男

木を植えた男

 

 

こちらの本もおすすめです 

 

小泉吉宏『戦争で死んだ兵士のこと』 

世界のSF文学賞初の三冠~ケンリュウ『紙の動物園』

 安東みきえ『頭のうちどころが悪かった熊の話』 

ハリエット・アン・ジェイコブズ『ある奴隷少女に起こった出来事』

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どんなペンの力をもってしても、奴隷制によって作り出され、すべてを覆いつくす堕落を十分に表現することはできない。(本文より)

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石井光太『蛍の森』

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人は感情を持つから人でいられる。それを失ってはならない。(本文より)

 

ハンセン病、差別の苦しみ

 四国には弘法大師ゆかりの八十八か所の札所があり、そこを順番に回ることを「四国遍路」という。白装束に杖の姿で札所を回り、経を唱え、また次の札所へと向かう。すべてを巡った時、人々の願いがかなうととか、身が清められるのだとかいう。

そうして遍路を続けるものの中には、生涯を巡礼に捧げる者もいた。ハンセン病と呼ばれる癩病患者たちも、そうした職業遍路となった者も少なくない。

 

ともかく、書き出しから残忍で生々しい文章が続く。それでも、ページをめくる手が止められないのは、これがただ物語を煽るために誇張させた世界ではないと思えるものがあるから。

 

2012年、四国の山奥にある雲岡村で、二人の高齢男性が同時に行方不明となる事件が起こる。90歳を超える老人たちが、すぐ先ほどまで生活していた形跡を残したまま突然失踪した。まるで神隠しにでもあったように。

その事件に、父・乙彦が関与しているという。

事件への関与を自ら認めながら、事件について何も語ろうとしない父に会うため、男は警察とともに雲岡村にやってきた。

 

男は、かつて父から渡されたノートの中に、今回の事件の鍵が隠されているのではないかと感じる。

そこには、雲岡村に生まれて13歳までこの村で暮らしたという、父の生い立ちが記されていた。

 

胸がつぶれるような苦々しさと嫌悪感は、物語が進むにつれて重みを増してゆく。現世で虐げられ居場所を追われた者たちは、せめて来世での平穏な暮らしを願う。その儚く小さな拠り所さえも奪われる。

 

感情を麻痺させなければ生きてはいけないほどに、人が人を追い詰めてゆく。

追い詰める側もまた、感情を麻痺させなければできないことだろう。

ここに描かれているのは、感情をなくした人たちが人の感情を奪ってゆく悲しい連鎖。

えぐられるような心の痛みに、自分が揺さぶられる。生涯でこんな本に何度も出会うことはない。

 

この物語に正面から向き合い、書ききった著者に敬意を表したい。

 

 

おすすめポイント

 ◇ハンセン病を扱った作品

◇ノンフィクション作家・石井光太さんによる小説です。注目の作家さん。

◇暴力的な表現やシーンを含みます。苦手な方はご遠慮いただいたほうがいいかと思います。高校生以上の読者に。

  

蛍の森 (新潮文庫)

蛍の森 (新潮文庫)

 

 

*おすすめの本と関連記事*

 

島崎藤村『破戒』

チャイルド・プア~社会を蝕む子どもの貧困

 

*ハンセン病について知る*

([と]1-2)あん (ポプラ文庫)

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『蛍の森』創作秘話 : 石井光太 − 旅の物語、物語の旅 −

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10代に新書で読む太平洋戦争

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原爆を生き抜いた人たちに物語がある~朽木祥『八月の光・あとかた』

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ヒロシマ原爆投下のあとを生き抜いた人たちの魂に寄り添う物語。

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澤井美穂『赤いペン』

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何か、物語はあるかい?

自分の物語を書かずにいられなくなるという、不思議な赤いペンのうわさ。

人から人へと旅をしながら物語を紡ぐ、そのペンの謎を追う。

赤いペンの不思議な物語

 それは都市伝説のようなもの。

その赤いペンを拾うと、手にペンがはりついて離れなくなり、無理やり書かせるという。ペンが勝手に何かを書き始め、疲れ果てた持ち主は病気になってしまうとか、ペンには呪いがあって手にした人は狂ってしまうとか。そのペンが赤いのは、持ち主の血を吸うからだとか。

去年あたりから町のあちこちで、そんな赤いペンのうわさがささやかれている。

 

夏野は、その赤いペンの話を探している。学校でも赤いペンのうわさを耳にすることはあるが、人と話すことが苦手な夏野は、直接話しかけることが出来なくて、調査は思うように進まない。

中学二年生にもなってクラスメイトに気軽に声をかけることもできない自分が情けなくもあり、自分のコミュニケーション能力の限界にへこんでいる。

 

そんな夏野にも心強い助っ人がいる。町の文学館にいるふたり、少し弱気だけどまじめで優しい草刈さんと押しの強いやり手のちはやさん。それから、バーすずらんのマスター、五朗さん(見た目はすらりとした美人さんだけどね)。

 

ひょんなことがきっかけで、クラスメイトの春山が調査に協力してくれることになった。春山は、好奇心が旺盛で、物怖じしないタイプ。ひょろりと背の高い夏野と、クラスの男子で一番背の低い春山。性格も正反対のふたりが、赤いペンを拾った人たちから物語を聞き集めていくのだが、やがてペンの物語は別の物語へとつながっていく。

 

どうして、夏野が赤いペンのうわさを調べようとしているのか。夏野には、赤いペンの真相を確かめたい理由があった。

少し謎めいていてファンタジックな物語。

 

  少し謎めいた物語に引き寄せられページをめくる手が止まらず一気読み。読みやすく確かな文章の安定感があり、ドキドキしながらもじっくりと読ませてくれる。赤いペンのエピソードを集めた連作短編のような流れを想像していたところで、夏野の物語が絡みはじめたところからさらにひきこまれ、最後をしっかりとまとめてあって、さらに余韻を残してくれる。最後まで飽きずに読めるかどうかは、私のおすすめ本選びのポイントのひとつだが、満点。

 

中学生の女の子にすすめたら、おもしろかったみたいで一気読み。村山早紀さんの『コンビニたそがれ堂』シリーズやあまんきみこさんの『車の色は空の色』が好きな人におすすめ。

 

高学年から楽しめそう。男女、年齢問わず、おすすめできるとてもいい作品。久しぶりにヒットの児童文学。著者のデビュー作だというので、今後の活躍にも期待しています。

 

 

高学年におすすめ

 ◇高学年からおすすめ

◇中学生にもおすすめの児童書

◇著者のデビュー作

 澤井美穂さんは、北海道生まれ。高校の国語教諭をしながら、児童文学の創作に励んでいます。 

◇読書感想文にも

 

 *受賞歴など*

◇第16回ちゅうでん児童文学賞受賞

◇全国学校図書館協議会選定図書

 

 *本をチェックする*

赤いペン (文学の森)

赤いペン (文学の森)

 

 

そんなあなたにおすすめの本 

村山早紀 『コンビニたそがれ堂』

村山早紀『コンビニたそがれ堂―奇跡の招待状』

西川紀子 『わたしのしゅうぜん横町』

斉藤洋『遠く不思議な夏』