青りんごの本棚

~本とごはんとコーヒーと。10代の読書案内~

100万回生きたねこを愛する作家たちによる『100万分の一回のねこ』 

 


100万回生きたねこへのオマージュ作品集 

 

日本で一番有名なねこと言えば、夏目漱石さんの書いたあの名前のないねこでしょうか。

吾輩は猫である (宝島社文庫)

吾輩は猫である (宝島社文庫)

 

 

では一番長生きをしたねこと言えば、間違いなくこのねこ。

 

100万回生きたねこ (講談社の創作絵本)

100万回生きたねこ (講談社の創作絵本)

 

 

佐野洋子さんの『100万回生きたねこ』は、ある時は一国の王のねことなり、ある時は船乗りのねこ・・・いろんなひとのねことして、100万回も死んで生きてきた。ねこが死ぬごとに飼い主たちは、ひどく悲しんだけれど、ねこはちっとも悲しくなかった。ねこは飼い主たちのことが好きではなかったから。100万回生き返り、ねこは白ねこに出会い恋をする。白ねこが死んでしまったとき、ねこははじめて泣いた。はじめて悲しみを知り100万回も泣いたねこは、もう生き返ることはなかった。というストーリー。

 

子どもから大人まで愛されているベストセラー絵本は、もちろん作家ファンも多い。100万回生きたねこの1回分の人生(ねこ生かな?)を、この作品のファンである作家さんたちが描いたアンソロジー。

 

作家陣も豪華ですよ~。

江國香織岩瀬成子、くどうなおこ、井上荒野角田光代
町田康今江祥智唯野未歩子山田詠美綿矢りさ
川上弘美、広瀬弦、谷川俊太郎

 

真っ先に読んだのは、佐野洋子さんの息子さんでもある広瀬弦さんの作品。星新一さんのSFショートショートのような皮肉っぽいおもしろさがあります。佐野さんへの親愛を感じたのは、谷川俊太郎さん。どの作品も作者らしさがみえて、ひとつの物語からさまざまな作品が生まれるおもしろさが味わえます。


一番心に残ったのは、角田光代さんの「おかあさんのところにやってきた猫
あったかいおうち、おいしいごはん・・・、子猫はおかあさんのところでくらしていれたらずっとしあわせだった。外の世界で出会ったトラ猫との暮らしを描いて、子猫はおかあさんのところから外の世界へと飛び出していく、というストーリー。

長いこと外で暮らしたねこはある日、むかしの町へと戻り、おかあさんと再会するのだが、命が終わるという最後の瞬間、ねこはこう思う。

 

次に会うとき、わたしがおかあさんで、おかあさんが赤ん坊だ。おかあさんは、わたしがはじめて生む赤ん坊。いつか捨てられるとわかっていても、わたしはいっしょうけんめい赤ん坊の面倒を見る。捨てられるために面倒を見る―


いつだったか、結婚を決めた友だちと食事に出かけた時のことを思い出した。訳あって、母親がその結婚をあまりよく思っていないのだとため息をつく彼女に、私はこんなことを話した。

 

「応援してないわけじゃないと思うよ。もしも、幸せになれないのだとわかっていてもちゃんと送り出すよ、母親ってそういうものだもの」

 

友達は、ありがとう♪と元気を出してくれたが、私は自分が言い放った言葉に驚いていた。母親ってそういうものだ、などと娘が生まれたばかりの母親初心者がよく言ったものだ。まるでベテラン母のセリフじゃないか。自分がどこかで抱いていたであろう母親像が勝手に浮かび上がってきたと同時に、私もまたそうして母にここまで送り出してもらっていたからだと気づかされた瞬間でもあった。母親とはそういうものだと言い切れるほどに、じゅうぶんにしてもらってきたのだと。

 

いつか、彼女を外の世界に出してやるために私がいる。そこに私の求めている幸せがなくとも、彼女がのぞむのならそこへ放ってやるための私なのだ、と無自覚のうちに母親としての覚悟を決めていたようだが、この私の覚悟には続きがあったのだと気づかされた短編。

 

 ほかにも味わい深いねこの短い物語が満載。

 

おすすめポイント

佐野洋子さんへのオマージュ短編集

◇ねこの物語

◇絵本をテーマにした本