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青りんごの本棚

~10代の読書案内~

乙一『箱庭図書館』

短編・アンソロジー
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「わたしが小説を書くようになった経緯(いきさつ)について書いてみようとおもう。」

ぺーじをめくってさいしょの物語「小説家のつくり方」の数行目で
「これはもしや乙一が自分のことを語ったエッセイか」と惑わされた。

思わず自分が今いる図書館の本棚と分類シール「913」を確認してしまう。
9で始まる番号は「9類」と呼ばれ、文学一般をあらわす。真ん中の1は「日本」の作品であることを示し(英米文学なら3、ロシア文学なら8)、末番号が3なら小説、4ならエッセイ、6ならルポである。

913は、間違いなく小説だ。

 

小学5年生のときに学級日誌に物語を書き始めたという小説家の語り口があまりにも自然すぎて、エッセイかと勘違いするほど。と、読みだしたはずなのに、まんまと小説の中でも惑わされる。
どこまでが本当なのか、どこからはうそっぱちの作り物なのか。
これは「いま」のはなしか。いつの間に時間をさかのぼったのか。

そう、これが乙一流の小説なのだった、とひとつ短編を読み終えてやっと気付く。

どこか冷めたように淡々と物語ははじまり、少しのすっぱさを残して閉じられる。

 

【物語を紡ぐ町】がキャッチコピーの文善寺町に暮らす人々の6つの物語。

 

「コンビニ日和!」は、コンビニ強盗の話。どこかで聞いたことのあるようなストーリーだけれど、伊坂幸太郎の「チルドレン」っぽい。

 

「青春絶縁体」は、イケてない文芸部員の青春もの。中田永一の名前で書かれた『百瀬、こっちを向いて』っぽくて、ぴりっと切ない。

 

「ワンダーランド」は。ひろった鍵に合う鍵穴を探して町中を歩き回る男の子が、ある日、見つけてしまったものは…。っていう、ミステリーな乙一らしくて気に入った作品。

 

「王国の旗」は、夜のあいだ、閉店したボーリング場に集まって自分たちの王国でくらす子どもたちのお話。なんかしんみりとしちゃったなぁ。これは恩田陸っぽいなぁとかおもった。

 

「ホワイト・ステップ」は、雪の日の少し不思議な出会いの物語。SFファンタジックで祈りたくなるようなおはなし。「暗い所で待ち合わせ」っぽかったなぁ。

 

そうしてすべての短編を「あぁおもしろかった」と読み終えて、あとがきに驚く。


実はこれらの物語は、乙一の完全オリジナルではない。どうりで「っぽい」という感想ばかりになるはずだ、と自分の感覚に妙に納得。

 

集英社 小説 新刊 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー」の「オツイチ小説再生工場」からうまれたもので、読者のボツ原稿を乙一がリメイクするという企画。一般の方と乙一さんのコラボ小説。


だから乙一が描く、乙一っぽい物語。

 

全編を通して登場する、図書館勤務の潮音さんがいい味付けをしてくれてます。三度の飯より睡眠より本が好き、凍死するまで読み続けるタイプ。真冬のバス停で頭に雪をのっけたまま、一晩中本を読み続けるくらいなんですから。そんな人めったにいないだろうけど。彼女の本好きっぷりに共感しながらも、さすがにそこまでは読めません<(_ _)>

 

箱庭図書館 (集英社文庫)

箱庭図書館 (集英社文庫)

 

 

おすすめポイント

 

◇作家と一般の方のコラボ小説

◇冬に読みたい本

◇短編集