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青りんごの本棚

~10代の読書案内~

穂村弘 『蚊がいる』

エッセイ
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「もう蚊取りの季節か」と突然言った。


なんのことだかわからずに近づいてみたら、絨毯の上にぽんっと置いておいてあるこの本を、本物の蚊取りと思ったらしい。

 

穂村さんのエッセイ集。この感覚、笑える。
「くすりっ」でも「にやりっ」でもない「ぷっ」である。

 

自由なこの社会では、「正解」はひとつじゃない、などといいながら、暗黙のルールがあるっぽい。さまざまな場面で選択を迫られながらも、自由であるがゆえに、迷う。

たとえば、私よりもふたまわりも年上の上司がマニアックな趣味について語ったりする。腕時計のコレクションとか、音楽のことだったり。


まわりで聞いている人たちが、
「いやぁ、それはすごい」
「お高いものなんじゃないのですか」
「すてきな趣味ですね」
なんて感嘆の声を揃える。
上司もまんざらでもなく、
「こういうものは貴重だからね」と答える。

そんな時、はしっこの方でうんうんとうなづきながらも、まさか言えない。

「私も、それ持ってます」なんて。

 

わたしのような小娘(もうそんな年頃でもないが、上司からみたらそうだろう)と同じような趣味をお持ちだなんて、みなさんに知られたくないに違いない。かといってみなさんのように「知らなかったぁ」という風にも振る舞えない。
だって、私もそれ持ってるし、よく知ってるもん。

こんな時、どうしたものかと思う。

 

穂村さんが暗黙のルールのはざまで迷い翻弄される日々に「ぷっ」と笑い、「わかるよぉ」と安心する。それでいて、「あぁ、世界ってそうだったね」っていうような妙な説得力がある。(もちろん穂村さんは、自分の感覚を世に浸透させたいなどと思ってはいないだろうが)

 

よかった、わたしだけじゃない。CDケースを開けるのが苦手で、「東大で一番の馬鹿になら勝てるだろうか」と妄想してみたり、激怒すべきであろう場面で怒らずにあやふやな動きをしてしまうのは。


面白かったのは「内気だけが罪」「パッチワーク紳士」「蝿とサンドイッチ」「納豆とブラジャー」

「白鳥とアイロン」は思わず「ぶっ」と噴き出すほど。

「そんなにおもしろいの?」と聞いてくる息子に読み聞かせしてやる。←上から目線。

…おかしい、私みたいに噴出さない。
この感覚すっごくおもしろいのに。
ちがう、ちがう。
なんだか焦って「自分で読んだ方がおもしろい本だからね」なんて、なぜか言い訳めいたことを口走る。

 

わたしがよみきかせなんかしたばっかりにおもしろさ半減したようで、布団の中で私をじっと見つめる息子の瞳に見守られながら、なんだか穂村さんに申し訳ないような気持ちになったりして。

 

いや、まちがいなくおもしろいから。
でもねだられても、よみきかせしないで。

 

蚊がいる (角川文庫)

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