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石井光太『蛍の森』

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人は感情を持つから人でいられる。それを失ってはならない。(本文より)

 

ハンセン病、差別の苦しみ

 四国には弘法大師ゆかりの八十八か所の札所があり、そこを順番に回ることを「四国遍路」という。白装束に杖の姿で札所を回り、経を唱え、また次の札所へと向かう。すべてを巡った時、人々の願いがかなうととか、身が清められるのだとかいう。

そうして遍路を続けるものの中には、生涯を巡礼に捧げる者もいた。ハンセン病と呼ばれる癩病患者たちも、そうした職業遍路となった者も少なくない。

 

ともかく、書き出しから残忍で生々しい文章が続く。それでも、ページをめくる手が止められないのは、これがただ物語を煽るために誇張させた世界ではないと思えるものがあるから。

 

2012年、四国の山奥にある雲岡村で、二人の高齢男性が同時に行方不明となる事件が起こる。90歳を超える老人たちが、すぐ先ほどまで生活していた形跡を残したまま突然失踪した。まるで神隠しにでもあったように。

その事件に、父・乙彦が関与しているという。

事件への関与を自ら認めながら、事件について何も語ろうとしない父に会うため、男は警察とともに雲岡村にやってきた。

 

男は、かつて父から渡されたノートの中に、今回の事件の鍵が隠されているのではないかと感じる。

そこには、雲岡村に生まれて13歳までこの村で暮らしたという、父の生い立ちが記されていた。

 

胸がつぶれるような苦々しさと嫌悪感は、物語が進むにつれて重みを増してゆく。現世で虐げられ居場所を追われた者たちは、せめて来世での平穏な暮らしを願う。その儚く小さな拠り所さえも奪われる。

 

感情を麻痺させなければ生きてはいけないほどに、人が人を追い詰めてゆく。

追い詰める側もまた、感情を麻痺させなければできないことだろう。

ここに描かれているのは、感情をなくした人たちが人の感情を奪ってゆく悲しい連鎖。

えぐられるような心の痛みに、自分が揺さぶられる。生涯でこんな本に何度も出会うことはない。

 

この物語に正面から向き合い、書ききった著者に敬意を表したい。

 

 

おすすめポイント

 ◇ハンセン病を扱った作品

◇ノンフィクション作家・石井光太さんによる小説です。注目の作家さん。

◇暴力的な表現やシーンを含みます。苦手な方はご遠慮いただいたほうがいいかと思います。高校生以上の読者に。

  

蛍の森 (新潮文庫)

蛍の森 (新潮文庫)

 

 

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