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青りんごの本棚

~本とごはんとコーヒーと。10代の読書案内~

今村夏子『あひる』

デビュー作『こちらあみ子』がえらく気に入って、楽しみにしていた今村夏子さんの2作目『あひる』が第155回芥川賞候補となり単行本発売すると聞いて、早速書店へ。

 

 今村夏子あひる

 

インスタグラムやツイッターでは、本を読み終えたみなさんの感想にウキウキとしながら、近所の書店を2店舗も回ったが、単行本には出会えず帰宅。

入荷後すぐに売り切れてしまったのか←だとしたら入荷すべき

それとも、以前問い合わせた時のように「当店ではお取り扱いのない商品」なのか←よほど根に持っているらしい

 

芥川賞では食えないとはよく聞くが、大型書店でもランキング圏外だとは、テレビで話題となっても純文学はやはり人気がないのね。

書店で出会いたかったのだけれど、ポチらせていただく。

 

淡いピンクの装丁とあひるのイラストがほんわかさせてるが、物語は穏やかな狂気をはらむ。

 

引っ越すことになった知り合いに頼まれ、我が家に「あひる」がやってきた。「のりたま」と名付けたあひるを飼い始めてから、近所の子どもたちが家に遊びに来るようになり、家族の中にも会話が増える。

ある日、具合の悪くなった「のりたま」を病院に連れて行くのだが、帰ってきた「のりたま」は、以前の「のりたま」とどこか違和感がある。

以前よりも明るくなった父と母、一見穏やかに感じる家の中にも生まれた「すきま」のような違和感。

それは『おばあちゃんの家』の作品にもある。みのりは少し離れたところにひとりで暮らすおばあちゃんがこのところ少しずつずれてきている気配を感じている。『森の兄弟』でも、モリオは壁おばあちゃんのいる小屋の壁の向こうに、日常から隔たれた「違う」世界を感じている。しかし、みのりもモリオもその世界を日常化することで、簡単に「ずれ」への意識は薄められる。

 

今村夏子の描く狂気とは、ミステリーが好むサイコパスのようなものではなくて、こうした「くるい」や「ずれ」のようなもの。いつのまにか日常に入り込んでいて、それと気づかずにいつしか自分の中に取り込んでいる。あたたかかったお風呂のお湯が少しずつ冷めていき、いつしかすっかり冷たい水になっていることに気が付かないみたいに。

ふつうの人なら、そんなことはありえない。

水がすっかり冷たくなる前に気づかないと命を危険にさらすことにもなるのだから。

 

夏子さんはそんな狂気をはらむ日常をボーダーレスにユーモラスに描ききる。

中村文則さんのような暗闇の中でもなく、

村田紗耶香ちゃんのように悶えたりしないで、

又吉直樹さんのような重厚な言葉を配置させるのでもなく、

道ばたで拾ってきた言葉を並べ替えたら、こんな物語ができたよ、というような、ぽつりとした感じが生む小さな違和感が、なぜか心地よい。

 

 

ここに描かれているものが「くるい」や「ずれ」のようなものなのだとしたら、そもそも基準となる「正しさ」の存在が必要になるわけで、でもそんなものは、もしかしたら最初からないのかもしれないけどね。

 

もくじ

あひる

おばあちゃんの家

 森の兄弟

 

 おすすめポイント

◇第155回芥川賞候補

◇話題作・いま注目の作家

 

あひる

あひる

 

 

 

関連サイト

 

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