青りんごの本棚

中学生・高校生におすすめの本をあつめています

さだまさし『アントキノイノチ』

秋のある日。

「風邪ですか?冷えてきましたものね。」

と鼻声の私にヤクルトさんが優しく声をかけてくれた。

「えっ、えぇ。ありがとうございます…」

鼻をぐずぐずさせながら私は答えた。

「本を読んでいたのです」とは言えずにね。

 

心に響く言葉ばかりで、それがいちいち深く刺さる。
「泣けるやつだろうなぁ」と予測していたものの、とにかく涙と鼻水が出まくる。

さださん、泣かせすぎや。

 

かつて親友を守れなかったことで心を病み、高校を中退して自分を閉ざしていた永島杏平は、父の知り合いの会社「CO-ORES」で遺品整理の仕事を始める。先輩の佐相さん、会社の社長、おふくろ屋で働くゆきー優しく強い人たちとのかかわりの中で、杏平も少しづつ心を和らげはじめる。そして、ゆきにも悲しい過去があったことを知る。それは、忘れたくても忘れられない、自分を追い込んだ男に関わることだった……。

 

一人暮らしで誰にも看取られることなく亡くなる人がいる。中には家族や近隣と接点がなく、何カ月も気づかれないままという人も少なくない。それを社会では孤独死と呼んでいる。たまたまこの本を読む直前に無縁社会をテーマにしたNHKスペシャルの番組を見たので(それも敬老の日だったと思った)、孤独死をあつかったこの小説をとても興味深く読んだ。

 

数カ月も遺体が放置されているのだから、ひどい臭いはするし、虫の繁殖もすごい。小説でも、思わず「うげっ!!」と声をあげてしまうような現場の描写が出てくる。実際にこのような仕事を敬虔さと謙虚さをもって行うというのは、誰にでもできることではない、と本当に尊敬して読ませてもらった。

 

物語に出てくる「クーパーズ」のモデルとなったのは、実在する遺品整理業の会社「キーパーズ」。ここで、佐相さんのモデルになった本物の(という言い方もおかしいが)「佐相さん」も働いている。ただし、こちらの佐相さんは、小説に出てくる前科持ちの中年ではなくて、30歳前後のお若い方だそうです。(そのへんは、ぜひあとがきも読んでみて下さい)

 

友人を守れなかったことやだれかに強く抱いた殺意、いろんな思いが杏平やゆきの心を追いこんでいくのだけど、世の中って生きづらいようにできてるんだな、と改めて感じる。それに気付かずに生きれる人は幸せだ、とも思う。ひとりの人ができることって小さいけれど、せめて、誰かに生きづらさを感じさせることのないように、私は生きたい。

ちょっとした心使いや言葉がけで世の中はがらりと変われるはず。

これからを大切に生きたい、と思う。
この人生もいつかは終わりがあるから。

 

おすすめポイント

◇映画「アントキノイノチ」原作

 

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アントキノイノチ (幻冬舎文庫)

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