青りんごの本棚

~本とごはんとコーヒーと。10代の読書案内~

ある日、「星やどりの声」と。

むしゃくしゃとやるせなさが爆発した夕方、ひとりでふて寝していたある週末。
布団にくるまり、それでも、もやもやとした思いは打ち消せずに、情けなさにひっそりと涙しながら浅い眠りに落ちていたところ、どこからともなく、野菜煮込んだいい香りに目が覚めた。


窓の外はもう灰色がかった青。とっくに夕飯の時間を過ぎている。
布団でぼんやりしていると、カレーの匂い。

 

もう一生ご飯なんか食べる気がしない、とか本気で考えたのは数時間前のこと。

そういえば、さっき娘がカレールーのことを何か話していたような。子どもたちがお鍋をかきまぜる姿を想像しつつ、浮かんだのは、朝井リョウの「星やどりの声」に出てくるビーフシチュー。

 

三男三女母ひとりの早坂家。お母さんの経営する純喫茶「星やどり」は、亡くなったお父さんが建てた形見のようなお店に、お母さんの作るビーフシチューが看板メニュー。家族の物語が連作短編の形で語られる。

子どもたちが悩んだり怒ったり泣きたくなったり、それぞれにいろんなことがあるのだけど、毎日変わらない味でほっと安心を与えてくれるこのビーフシチューのあったかさとゆったりしたお店の雰囲気は、家族そのもの。

 

小さなことまで話さなくても、お父さんがもう生きていなくても、自分がひとりぼっちだと思いたい時も、自分はずっと家族に見守られ、家族の中で育ってきたのだと気づかされる。


あのビーフシチューを思い浮かべ、すっかりおなかがすいた。


リビングに降りていくと、子どもたちが待ってましたとばかりに口々に。

「カレー作ったよ」と娘
スープカレーになったよ~、あはは」と息子
「ルーがね、ひとつしかなかったから」とまた娘。

「はぁ、おなかすいたぁ」と私。

 

悲しくなって不安になったのは、私だけじゃないはずなのに、子どもたちに気遣いしてもらうなんて、なんだか恥ずかしいなぁ。

 

物語の中のビーフシチューは、私にとって、さらさらで味の薄いスープカレー。家族に作ってもらうご飯は格別で、笑えるのもこの一皿のおかげ。

 

あのカレーがなければ、わたしはいまでも布団から抜け出せなかったかもしれない。

癒しのスパイスは、家族っていいなと1日を終えられることのしあわせ。

 

星やどりの声 (角川文庫)

星やどりの声 (角川文庫)

 

 2014年海城中学入試国語出典作品