青りんごの本棚

~本とごはんとコーヒーと。10代の読書案内~

川上未映子『ヘヴン』

4月が終わりかけたある日、ふでばこの中に小さな紙が入っていた。

<わたしたちは仲間です>

それが、教室の中でいじめられている僕とコジマをつなぐ最初の手紙だった。

 

 ヘヴン

 

コジマは言う。

わたしたちがこのままさ、誰になにをされても誰にもなにも言わないで、このままずっと話さないで生きていくことができたら、いつかは、ほんとうの物になれますかね。

 

傍観者である百瀬は言う。(彼は完全なる傍観者でもないが)

地獄があるのだとしたらここだし、、天国があるとしたらそれもここだよ。ここがすべてだ。そんなことはなんの意味もない。そして、僕はそれが楽しくて仕方がない。

 

 

苦しみや悲しみを乗り越えることに意味はあるのだと断固するコジマも、

物事には意味などなくたまたまなのだと淡々と語る百瀬も、

すべてをただ受け入れてしまう僕も、

ここで起こることのすべてが現実で、

それと同時に、誰もがすべて自分に都合のいいように作り上げられた世界観の中だけで生きている。

現実と非現実は自分の外側と内側で同時に存在しているリアル。

その危うさと確かさが絶妙に描かれていた。

 

「君は」と僕は言った。「狂ってるんだ」

 

狂っているのだとしたら、「狂っていない」状況も必要で、自分の世界観からみたらだれもが少しずつ狂っているのだ。

みなそれぞれに見えている世界がはじめから違っていて、完結していると思っている自分の世界は、他の誰とも交わらない。

わたしの世界では、それは少し怖くて、やっぱり少し「狂っている」

 

そうそう簡単に出会うことはないが、心を震わす作品。

 

君の名は。』の新海誠監督も、川上未映子さんのこの作品に魅せられたひとりらしい。

 

 おすすめポイント

◇第20回紫式部文学賞受賞

◇平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞

芥川賞受賞作家

◇いじめをテーマにした本

 

ヘヴン (講談社文庫)

ヘヴン (講談社文庫)