青りんごの本棚

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辻村深月『鍵のない夢を見る』

止めようも抗いようもなく、気づくと狂気は隣にいた。

自分がいた場所が少しずつおかしくなっていたのだろうか。

それとも、おかしいと気づかずにそこへ自分から入り込んだのだろうか。

いずれにしろ、自分が気が付かないうちにそういうことになっていたらしい。

狂っているのは外の世界か、自分の世界か。

 

辻村深月鍵のない夢を見る

 

*もくじ*

仁志野町の泥棒

石蕗南地区の放火

美弥谷団地の逃亡者

芹葉大学の夢と殺人

君本家の誘拐

 

狂気は気配をまとわずすぐとなりに

りっちゃんのおかあさんは、泥棒だ。近所の家に入ってお金を盗む。まわりのみんなは知っていて、それを知らないふりをして暮らしている。りつこはその暗黙の了解のようなものに、どこか気味の悪さを感じている。(「仁志野町の泥棒」)

 

どの物語にもお尻がむずがゆいような居心地のわるさが漂う。

居心地の悪さを作り出す人、その空気に慣れてしまっている人、どちらをも見ている人、何も感じない人。

恋人や夫や友達や、時には子どもーすでに自分の生活の中に入り込んでいるものーが少しづつ狂気をはらみだしても、こちらは気が付かない。それどころか、その狂気にごく自然に含まれてしまう。

 

少しずつ霧が濃くなっても、視界をすべて遮られるまでは「大丈夫」であると思うかのように。

目に見えない微妙な変化にそれと気づかずに、その線を踏み越える人たちの心情がうまく描かれている。その線は、いったいどこにあったのか、読み終えてもわからない。

 

いずれにしろ、最後まで取り込まれている狂気に気づかない人はきっと幸せだ。

 

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鍵のない夢を見る (文春文庫)

鍵のない夢を見る (文春文庫)

 

 

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