ケンリュウ『紙の動物園』
2017-36冊目
『紙の動物園』ケンリュウ
カタログで選ばれ、言葉もまともに話せない異国へと嫁いできた母。母は僕に折り紙の動物をいくつも作ってくれた。
それらは生き生きと動き、僕の大切な友人となった。
しかし紙で折られた動物たちは脆く、その脆さは、拠り所のない母の弱さと重なり、そこから目を背けるように、成長とともに僕はそれらに封をしてしまった。
時がたち、折り紙の動物たちの中にしたためられていた母の強さを僕は知る。
ケンリュウは、多彩な顔を持つ。
小説家であり、プログラマーであり、弁護士。
1976年中華人民共和国甘粛省生まれ。
11歳で、家族とともにアメリカ合衆国に移住。
ハーヴァード大学で英文学を専攻しながら、コンピュータ・サイエンスを学び、卒業後にマイクロソフト社に入社。
独立して、ソフトウェア開発などをした後、ハーヴァード・ロースクールに入学し、弁護士となる。
現在は、コンサルタント業のかたわらスマホやタブレットの子ども向けアプリの開発もしている。
趣味は古いタイプライターの蒐集と修理。
この人、カッコよすぎるでしょ。
カッコいいけど、こんな人を彼氏にしたら、何もできない自分が嫌になっちゃいそうなくらい。
彼が描くのはサイエンスを駆使した未来の物語ではなく、科学をスパイスにした文学小説。
それはSF小説とは違う、SF文学だと思う。
ここに込められているのは、可能性という未来ではなく、心を揺さぶるノスタルジー。
表題作「紙の動物園」は、2012年ネビュラ賞、ヒューゴ賞世界幻想文学大賞短篇部門受賞など、多数の文学賞を受賞。・コンピュータソフトがプログラミング言語で作られているように、小説もまた自然言語の羅列から生まれる感情作動装置なのかもしれない。よくできた装置は、思いがけず、こんなにも私たちの心を揺さぶる。
追記:表題作が泣けました。他の短編も秀逸。あるいは、翻訳がいいのか。