青りんごの本棚

~本とごはんとコーヒーと。10代の読書案内~

川上弘美『神様』と『神様2011』

川上弘美さんは好きな三人の作家に入る作家さん。

「神様」は、川上弘美さんのデビュー作。小さいお子さんをそばで遊ばせながら2時間ほどで書きあげた本作が、第1回パスカル短篇文学新人賞受賞したというエピソードも、お気に入り。

 

 

神様 (中公文庫)

神様 (中公文庫)

 

 

同じアパートに引っ越してきた「くま」とピクニックに出かける、というだけのストーリーなのだけど、ゆるやかさと満たされ感がある。川上さんの作品はどれもそうなのだけれど、ファンタジックでありながら、この自然さ、匂うようなしっとりした感じが、たまらなく「必要だ」と思わされる。一息入れたい時のコーヒーに近い。中毒になるあたりもまた、そう。

 

彼女の「言葉のならべかた」が私の心をつかむ。絶妙なのだ。

これは感覚的なことなので、「別に何も感じない」という人も「自分には合わない」という人もいるだろう。私にとっては、必要不可欠なものとしてある。

 

2011年3月11日の東日本大震災を受けて、川上弘美がこのデビュー作「神様」を書きなおして、発表した。

「神様2011」である。

 

神様 2011

神様 2011

 

 

「神様2011」には、オリジナル「神様」と書きなおした「神様2011」が同時収録されている。ストーリーは、おんなじ。ただ、「神様2011」は、「あのこと」の後の出来事という設定になっている。例えば、外出時には防護服を着ていたり、川原までの道が「

元水田」になっていたり、別れ際にはガイガーカウンターで体表の放射線量を測定したりする。なんとも、趣がない、風情がそがれる…。

 

皮肉ともとれる書き直し作品。川上さんの憤りを感じる。
どうすべきかとか何が悪い、なんてことは一言も書かれていないが、こういう作品が発表されるのは、とても残念なことなんだよ、っていうメッセージがずしんと響く。

 

高校の国語教科書に掲載されて、議論を呼んだこともある作品です。

震災時、みんなが最後にたどり着いたのは「自分にしかできないこと」だったと思う。

作家には作家にしかできないことがある。