青りんごの本棚

~本とごはんとコーヒーと。10代の読書案内~

伊集院静『機関車先生』

美し景色と温かい人たち。

子どもがまっすぐ育つのに、これだけあれば十分なのかもしれない。

なんてことを思う。

 

 

瀬戸内に浮かぶ小さな島・葉名島に新しく臨時の先生がやってきた。体が大きく、小さい時の病気が原因で口がきけない、口を”きかん”吉岡先生は子どもたちから機関車先生と呼ばれるようになる。機関車先生と、島の子どもたちの交流を描いた物語。

 

瀬戸内の美しい自然に囲まれて、強くて優しい先生に学び、子どもたちはあたたかく見守られるように成長していく。そこにあるのは、決してきれいなものばかりではない。自然は時に厳しく残酷に何かを奪い、子供たちは学校で学びながらもその将来は決して明るいものばかりではない。

 

潤三と修平の父が海で遭難し、捜索が打ち切られた。合同葬儀が取り行われるのだが、修平は寺を飛び出し浜へ駆けだした。小さく震え、涙声で「父ちゃん、帰ってこい」と海に向かって呼びかける修平に、作爺が声をかけるシーンがある。

 


「父ちゃんは死んどらんの。帰ってくるじゃろう、作爺」
「帰ってはこん」
「うそじゃ」
「うそじゃない」
「うそじゃ、わしが探しに行く。わしがひとりでも探しに行く」
「なら早う一人前になれ」 

 

それが、可哀そうだとか大変だとかいうのではなくて、それが子どもたちの生活なのだ、と思う。そして子どもたちはちゃんとそのことを知っていて、自分も一人前になる必要があることを知る。
学校の中にちゃんと生活があり、子どもたちは現実という土をしっかりと踏みしめて成長していく。そうして生きていくのだと、当たり前だけれど思い知らされる。

わたしの気に入ったシーンは、精霊流しでの吉岡先生と美重子さんが手話で会話をする場面。

 

――先生がずっとひとりで孤独だったら生徒たちは悲しいんじゃないかしら。子どもたちはあなたのうしろ姿を見て大人になるんだと思うわ。私、信じてるんです。
――何をですか。
――人間は平等だってことを。私の教えている生徒は健康な人たちよりハンディキャップがあるけれど、その代わりにとても豊かであたたかいものを授かっていると信じているの。
――わたしもそう思います。
――ならまず、あなたがしあわせになって子どもたちのお手本になるべきでしょ、さあ約束して下さい。

 

現実を生きること。

子どもたちに希望を与えること。

大人の役割はとても大きくて、難しくて、単純なのかもしない。

とてもいい物語でした。

 

おすすめポイント

柴田錬三郎賞受賞作

◇島の子どもたちの成長物語

◇先生の物語

 

機関車先生 (講談社文庫)

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