青りんごの本棚

~本とごはんとコーヒーと。10代の読書案内~

伊集院静『ぼくのボールが君に届けば』

 さりげなく、そこにボールがあった。

そんな短編集。

 

キャッチボールをしようか

野球をはじめたばかりの少年、事故で息子と孫を失ったひとりの老女、かつてのエース、すべてを失い旅に出る男・・・登場人物たちの年齢も境遇もさまざまであるが、それぞれにドラマを背負っている。なにかを抱えて生きる中で、野球が過去をつかまえて未来へのちょっとした(あるいは大きな)希望となり、前に進む後押しをしてくれる。野球というスポーツの魅せるドラマチックな興奮とは違う、向かい合ってボールを投げ合うキャッチボールのもつ静かさやぬくみに、日々の着実さを感じさせる物語ばかり。野球を知っている人も、そうでない人も味わい深く読める、とてもいい短編集。

 

 もくじ

・ぼくのボールが君に届け
・えくぼ
・どんまい
・風鈴
・やわらかなボール
・雨が好き
・ミ・ソ・ラ
・キャッチボールをしようか
・麦を噛む


「キャッチボールをしようか」のラストで、少年が言う「今日、この橋の上で神様を見たもの」というセリフになぜか安堵の涙がこぼれ、「雨が好き」の中で、祖母が芙美子に遺したことばが、私の心に残る。

 

人には誰にも悔みというものがあるものよ。悔みがない人生を送れた人はよほど幸福な人なんでしょう。でも、私は、そんな人はいない気がする・・・・・・。

 

ぼくのボールが君に届けば (講談社文庫)

ぼくのボールが君に届けば (講談社文庫)

 

 

ほかにも、「えくぼ」「風鈴」「ミ・ソ・ラ」など、静かだが印象深い作品が多かった。


どの短編も情景が思い浮かぶほどに、野球がスポーツの枠を超えて日常にさりげなく沁み込んでいるのだと気づく。とりわけ、どの物語にも出てくるキャッチボールのシーンには、読者にいつかだれかとしたキャッチボールを思い出させるに違いない。球技に限らず運動全般が苦手女子な私もまた、野球好きな父とのほろ苦いキャッチボールを思い出していた。

 

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