青りんごの本棚

中学生・高校生におすすめの本をあつめています

幸田文『おとうと』

7月30日は蝸牛忌(かぎゅうき)。幸田露伴の亡くなった日。わたし、露伴は読めませんが、娘、幸田文は語り尽くせぬ大切な作家さんです。

幸田文 のおとうと は彼女の自伝的小説。国語の教科書でもおすすめとして紹介されています。

 

まだまだ本当は素直で甘えたい年頃の弟をげんは、不憫にも思いながら姉として愛情をかけている。いつまでも修理に出してもらえない傘のことや、お弁当のおかずがよくないことを申し訳なく思ったり、継母と父からかばってやりたいと思っている。
姉の愛情を受けつつも、弟は少しづつ悪い方向へと気持ちが向いてゆき、やがて、結核を患い・・・。


私からみたら、少しだけ年上のげんだって弟と何ら変わらず同じである。継母と父と弟の三者に挟まれて、必要な気苦労を抱えているのだから。まだ無邪気でいたいであろう10代の少女の悩みじゃないよ。それでも、弟にかける愛情は、やはり母のそれに近いのだろう。そして、きかん気の強い姉である・げんにどうも自分を重ねてしまう。だからか、つい深入りして読んでしまうのだ。


人間関係を細やかに書き出すン文章力は、この頃の日常の危うさを生きてきた観察眼そのままなのかもしれない。彼女の物書きとしての目の付け所は、ここで養われたのだろう。


太い川が流れている

熱心な幸田文さんファンなわたしですが(自分で言っちゃう)、中でも『おとうと』は、その冒頭の文章が好きで、お気に入りの作品のひとつ。

川に沿って並ぶ葉桜、川面に音もなく降りかかる細かい雨、その雨をさらうように時折吹き上げてくる風。
その土手に傘・洋傘が並び、同じ方向へと流れてゆくその中に、蛇の目をさして、小走りしてゆくげん。
傘も持たず雨にぬれ先にゆく弟に追いつこうとしている。
出がけに傘の修理ができていないことで、弟の碧郎(へきろう)は機嫌を損ねているのだ。
弟への申し訳なさと不憫さと、追いついて慰めてやりたい気持ちと、そして傘を修理してくれていない継母へのやり場のない苛立ち諦めや惨めさや。17歳の少女が朝から、これほどのやり切れなさを抱えていることの切なさ。を、描く雨・・・。

時折、ノートに書き写しをするほどに、この雨の描写の美しさに心をとらえられています。

 内容(BOOKデータベースより)

高名な作家で、自分の仕事に没頭している父、悪意はないが冷たい継母、夫婦仲もよくはなく、経済状態もよくない。そんな家庭の中で十七歳のげんは三つ違いの弟に、母親のようないたわりをしめしているが、弟はまもなくくずれた毎日をおくるようになり、結核にかかってしまう。事実をふまえて、不良少年とよばれ若くして亡くなった弟への深い愛惜の情をこめた看病と終焉の記録。

 

 

おとうと (新潮文庫)

おとうと (新潮文庫)

 

 


 映画「おとうと」原作

 

おとうと [DVD]

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監督:市川崑
出演:岸恵子/川口浩/田中絹代/森雅之/仲谷昇/浜村純/岸田今日子

国語の教科書でもおすすめしている作品ですが、昭和初期のイメージがとりづらいため、冒頭だけ読んで挫折する10代も多いよう。イメージがわかない人は、映画をお先にどうぞ。岸恵子さんがハマり役です。