青りんごの本棚

~本とごはんとコーヒーと。10代の読書案内~

姫野カオルコ『昭和の犬』

 愛犬との心あたたまる感動物語、ではない。
昭和33年生まれの“イク”の昭和女子的生き様の物語である。
もちろんイクは犬ではない。

 

昭和の犬 (幻冬舎文庫)

昭和の犬 (幻冬舎文庫)

 

 

戦争帰りで激昂することのある父親と風変わりな母親との、お互いに一定の距離を保つような暮らしは、家族というよりも同居人のよう。イクは東京へ出て貸間生活を送り、そこでいろんな家族と出会う。

 

イクの人生の脇役として、その時代らしい犬たちが登場する。噛みついてくるような野良犬だったり、心通わせた飼い犬だったり、同居家族のペットを散歩させたりして。知らず、犬に癒されていたんだよね。時代の流れとともに犬の流行があるように、犬と人間との関わりが変わり、家族のかたちがかわりゆくさまがイクの生き様を通して見える。

 

学生運動やバブルといった「激動の昭和」を象徴するような派手なイベントは登場しない。地味ともいえるイクの人生を映しだしたスクリーンを見ているような静けさがある。しかし、辛いこともあったはずの人生を受け入れ踏み越えていくイクの生き方は、淡々としながらも力強い。これが昭和なのだと思う。平成のイクなら引きこもりになってもおかしくない。タイトルの「平成のお犬様」だろうか。

ちなみに、貸間というのは、一軒家のおうちのひと部屋を借りて暮らす下宿のような賃貸形態。今では聞かないよね。

本を読んで読者が登場する犬たちに癒される、というのでもないので、かわいらしさはあまり期待せずに読んでください。

 

おすすめポイント

 

◇第150回直木賞受賞

◇犬が好きな人に

 

動物が好きな人に

 

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