青りんごの本棚

中学生・高校生におすすめの本をあつめています

貴志祐介『新世界より』

この分厚さ。単行本上下巻合わせて1074ページ。合わせて約8cm。1冊でも、ちょっとしたパーティーバックより幅がある…。

しかし、ちょっとしたパーティーバックよりも私を楽しませてくれる、SFファンタジー。それともこの世界は、SFホラー?

そこがディストピア であることは間違いない。

 

1000年後の日本。

呪力を持った人たちだけで構成された町がいくつかあり、お互いにほとんど交渉のない状態で、それぞれが自治を保ち平和に生活している。呪力を持たない人間はいない。徹底管理された理想郷の中で、しかし、彼らの平和もまた完ぺきではなかった…。

 

SFファンタジー好きならさくさくと読めて面白いのだろう。あまり読まないジャンルなのもあり、生き物が想像しづらいし、出来たとしても気持ち悪いし、呪力とか楽しめないし、分厚くて手が痛いし、「反エコ本だ」と壁に投げつけたくなった。(ちょっと~、借りてる本なんですけど!!よい子のみんなは真似しないように)

 

「もし、真理亜がこの世に生まれてこなかったとしたら…大勢の人が命を落とすこともなかった…」この文章がはじめになければとっくにそうしていただろう。155ページ目が分水嶺だった。ここまで読めれば、「わたしファンタジーはちょっと…」というあなたも、もうハマってます。

 

描かれているのはファンタジーの世界で、それも人間の姿かたち以外は今私たちがいる世界と違いすぎる「新世界」のはずなのだけど(この世界に慣れるまでが、細かく想像しづらい描写も多く読み進めづらいかもしれません)、ラストまで読み終えてみて、これは、ファンタジーにかぶせて「人間臭さ」を描いた作品なのだと気付く。

例えば、この小説のように、人が力を持ちながら同時に倫理観も持ち合わせ、自らに抑制力を持たせたり、不満のない社会を作ることが可能だったりして、人々が争うということを無くすことができたとして、それでも、「平和」にはなり得ないという皮肉。逆を返せば、危険なものを排除すれば、平和は保てないものでもない。呪力の漏出も、バケネズミもその代価として。実は、その平和も「自分」のためだよね。

「平和」でありたいという願いも、もしかしたら人間のエゴなのかもしれないなどと、どこかの団体が聞いたら激怒しそうな考えが、ふと浮かんだり。

バケネズミたちの反乱の元凶が「知識」である。『増補改訂 日本という国 (よりみちパン!セ)』によると、そもそも義務教育が始まったのは日本が戦争で勝つための兵士を育てるためで、ただし、ただ知識を与えては国にとって危険なので、教育によって忠義心も植えつけるという、戦前の教育のからくりがこの物語にも当てはまっていて、合わせて読んでみると興味深い。

 

ホラー度はあまり高くないですが、怖がりの私には殺戮シーンは十分怖い。

(アニメは見なくてもいいや)

気持ち悪い生き物が嫌いな人には、オススメしません。いっぱい出てきます。わたしは、塩辛を見るとなぜかミノシロモドキを想像してしまいます。そういうリンクに耐えられる人はどうぞ。塩辛が食べられなくなったら嫌だな、という方はご遠慮した方がいいかも。

最後まで読むと、著者の意図も見えたりして、読み応えのある面白みのある作品だなという感想が言えますが、正直、読むタイミングが悪かったな、と感じました。戦闘シーンや荒れた土地を語る描写など、震災直後のいまは、別世界のファンタジーものとして読めない部分もありました。物語として純粋に楽しめないかもしれない、と思われる方にはおすすめしません。私も、もっと早く読んでいれば楽しみ方が違ったな、というのが正直なところ。

 

何はともあれ。読了後の感想をひとことで語るとしたら、

「やった~!!やったよ~!!」

箱根駅伝往復217・9㎞をたったひとりで走破し得たかのような『風が強く吹いている (新潮文庫)』の如く達成感。でもって、呪縛から解かれたかのような解放感。

 

そんなに嫌なら読むなよ、とおっしゃられるでしょうが、そうはいかない。
「そこに本があるのだもの。」

[警告]ドライアイの方は、こまめに点眼を挿しながら読みましょう。
   目が乾いて、ばっさばさになります。眼科で「『新世界より』のせいなんです…。あれを読んだがためにぼくは…」などと訴えることのないように、まずはお手元にドライアイ用の点眼をご準備下さい。

こんなに長い記事を最後まで読んでくれてありがとうございます。
あなたの目も乾いていませんか。点眼して、ご自愛下さいませ。

 

おすすめポイント

 

◇SFであり、ファンタジーであり、ホラーであり…

ディストピア小説であり

◇アニメ化

 

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新世界より(上) (講談社文庫)

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