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青りんごの本棚

~本とごはんとコーヒーと。10代の読書案内~

ファビオ・ジェーダ『海にはワニがいる』

ひとことで言うと、アフガニスタンに生まれた少年が、安住の地を求め旅をする日々を事実に基づきまとめられた物語である。

 

 

しかし、少年エナヤットッラー・アクバリの人生が、こんなかんたんな一文で片付けられるほど簡単なものではないということは、まだ本を読んでいない皆さんにも容易に想像がつくでしょう。でも、エナヤットの旅や生活の本当の厳しさは、私たちには想像も及びません。彼の体験を追うことはできても、その辛さを分かち合うことは難しいです。なにしろ、わたしたちにはそういった経験がないから。でも、だからこそ、知ることが大切なのだといつも思う。

 

エナヤットは10歳のとき、母とアフガニスタンを去った。(この10歳という年齢も定かなものではない。なにしろ、エナヤットは自分がいつ生まれたのかもわからないのだから)パキスタンにやってきた二人だが、その後、母はエナヤットを残し、弟たちのいるアフガンへとひとり帰って行った。エナヤットは、見知らぬ国でひとりで生活しなければならなくなったのだ。ホテルの雑用をしたり、それから自分でものを売って稼ぐようになったり。なんとか生きることもできる、それでもエナヤットは「よりよい暮らし」を求めて旅を続けることになる。

 

あとがきで、訳者・飯田亮介さんはこうつづる。

 


「よりよい暮らし」といっても、”外国でひと山当てて大金持ちになりたい”というような話ではなく、学校に通いたい、仕事をし、人間らしく生活することに過ぎない。いわゆる”先進国”のわたしたちから見れば、実にささやかな願いだ。

 

旅と言っても、密入国である。安全ではない。高いお金も支払わなければならない。エナヤットッラーは、8年間でパキスタン→イラン→トルコ→ギリシア→イタリアと、不法入国を続ける。

 

著者・ファビオ・ジェーダによるインタビューにエナヤットラーが答える形で、物語は進む。「その時どう感じたかはあまり重要じゃない」というエナヤットッラーは、これまでの出来事を淡々とした口調で語っているが、その体験は「よく今まで生きていてくれた」と思えるような、凄まじいものだ。深い感情表現をしない点も、そういう生き方をするしかなかったのだろうと思われて、逆に切なさが迫る。

 

内乱・密入国・難民問題がテーマではあるけれど、語り手であるエナヤットッラー自身も、「なぜこのようなことが起こっているのかわからない」という立場にいるので、これらの問題について知識のない人こそ、理解しやすく読みやすいです。

 

10歳からの8年間、日本で言えば中学生・高校生にあたる年齢。この年齢のみなさんに、ぜひ手にとって、世界の現状を同年代の立場から感じて欲しい1冊。

 

海にはワニがいる

海にはワニがいる