青りんごの本棚

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吉田修一『パレード』

この小説の中で描かれているのは、東京のマンションをシェアしてオシャレな生活を送っているイマドキの若者の群像劇なんかじゃなくって。

 

一緒に暮らす人を彼らは知らない

 

東京のマンションの一室をシェアして暮らしている4人の若者。

★良介(21歳・大学生)

★琴美(23歳・無職)

★未来(24歳・イラストレーター兼雑貨屋店長)

★直輝(28歳・インディペンデントの映画配給会社勤務)

 

 

4人はそれぞれにちいさな悩みを抱え、だれかと分け合いたい小さな孤独を抱えている。

 

琴美(23歳・無職)は思う。

 

インターネットの「チャット」だとか「BBS」なんてものが、もしかすると、ここでの私たちの生活ににてるんじゃないかと思う。

 

 

プライバシーに入り込み過ぎない、適度な距離を保った良心的な関係。そこに、ある日、見知らぬ青年(というより少年)サトルが転がり込んでくる。 未来(24歳・イラストレーター兼雑貨屋店長)は思う。

 

 

結局、琴も良介も、自分たちのそばにいて欲しいと願う人物像を、サトルに重ね合わせているのだと思う。そして、実は誰よりも世慣れているサトルが、そんなふたりの思いを読み取り、ある意味、姑息なまでに、彼らが求める人間に成り済ましているように私には思われる。

 

 

そうした中、マンションの周辺で女性を狙った暴行事件が起こる。

 

 

素性の知れないサトルだが、サトルが本当はどんな人間かなどということは、あまり重要じゃない。そもそも、ここでの生活で、本当の自分をすべてさらけ出して、ぶつかり合って暮らしている人なんてひとりもいないのだから。

しかし、まてよ。

それを言うなら、私が今いる社会だってそうじゃないのか。

 

未来(24歳・イラストレーター兼雑貨屋店長)だって言ってる。

 

今の世の中、「ありのままで生きる」という風潮が、なんだか美徳のようになっているが、ありのままの人間なんて、私には「怠慢でだらしのない生き物」のイメージしか湧いてこない。

 

「怠慢でだらしのない生き物」

それってまさに、誰もいない家の中でたったひとりでいるときの素の私そのものじゃないの。

 

でも、そのまんまの私が社会でまともに受け入れられる存在でないことを知っている。だから、私もまた素の自分のまんまで、社会に出ていくなんて危険なことはしない。

 

もちろん、中には素の自分をガツンとぶつけて、突っ走っている人もいるのだけれど、そんな人は、たいてい誰かを(時にはみんなを)困らせて、社会の機能を麻痺させている。


つまり、この小説の中で描かれているのは、東京のマンションをシェアしてオシャレな生活を送っているイマドキの若者の群像劇なんかじゃなくって、社会にありふれている人間模様そのまんまなのだ。

 

その中で、周りに求められている人物像をうまく演じられているようでいて、実はうまく切り替えができていないあの人物に、私は、妙に共感を得てしまった。その人物が誰なのかは、本を読んでいただくとして。

 

だれしもが、他人とは共有できるはずもない超個人的な自分と、生きるために共有しなければならない社会性を備えた自分をもつ。ストレスの多い現代社会で、うまく生きていくためには、そのバランスがとても重要になる。

 

インターネットはそもそも実体があってないような世界なのだから、求められる人物像を演じぬくことはそれほど難しくない。一方、人間社会では、そう簡単にいかないのだということも突き付けられる。

 

 

 おすすめポイント

 

吉田修一のはじめての書き下ろし長編

◇連作短編風ミステリー

 

受賞歴

 

◇第15回山本周五郎賞受賞

 

映画化

 

2012年映画化。行定勲・監督。

出演:藤原達也、香里奈、貫地谷しおり、林遣人、小出恵介

第60回ベルリン国際映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞。

 

パレード (初回限定生産) [DVD]

 

 

本をチェックする

 

パレード (幻冬舎文庫)

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