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青りんごの本棚

~本とごはんとコーヒーと。10代の読書案内~

恒川光太郎『夜市』

 怖いものは苦手だ。

小さい頃、怖い体験談テレビ番組「あなたの知らない世界」の誘惑に負けては、夜中眠れずに泣きながらトイレに行く、そして母に叱られるを繰り返してきたわたし。

 

分別が付くようになってからは、極力怖いものを遠ざけてきた。(リングはホラーと知らずに見てしまい、一週間電気を消して眠れなかった)

もちろん「ホラー大賞受賞」などという派手な宣伝文句にも「読んでたまるか!!」と抵抗を続けてきたが、あちこちで読んだレビューにひきこまれ、やはり手にしてしまった。誘惑に簡単に負ける。大人になりきれていない。

 

今夜は眠れなくったっていいっ!!
覚悟を決めたのですが、夜にトイレに行けないような怖い作品ではなかったよ。安心して。

 

今宵は夜市が開かれる。
夕闇の迫る空にそう告げたのは、学校蝙蝠(こうもり)だった。

 

はじめの二行で、もうその世界にするりと引き込まれるでしょ。

 

いずみが高校時代の同級生・裕司に誘われたのは、岬の公園でやるという夜市。そこでは、<なんでも斬れる剣>や<老化が早く進む薬>とか、本当にいらないよと言いたくなるものを十五億円とか百万円で売っている。そこで裕司は、幼いころに別れた弟を見つけた。

 

同時収録の「風の古道」も雰囲気があって、わたしはこちらがお気に入り。幼い時に迷子になって辿った不思議な道に、再び友人と入り込んでしまう少年の物語。どちらにも共通するのは、ちょっと奇妙で簡単には出られない場所だというところ。

 

「夜市」は何か買い物をしないと出られないし、「風の古道」は決められた場所からしか出たり入ったりできない。「風の古道」ではちょっとした事件が起きて、帰るに帰れなくなってしまうのだけれど。

どちらも、この世のものではない心許なさとつかみどころのない儚さ、そして見えないはずの冒険をするようなスリルが味わえる。

蝋燭と線香の匂いが沁みついた部屋で童話を読んでいるような、幼いころの記憶をくすぐられるような感じ。


子どものころ読んだ、芥川龍之介の「杜氏春」や「蜘蛛の糸」を思い出したからそう感じるのだろうか。

 

水木しげるが「遠野物語」をむしゃむしゃと喰い、吐き出した甘い吐息を吸いこんで誘われる眠りの中で見る夢のような怪しげでノスタルジックな短編。

無駄がなくすっきりとした文章は読みやすく、とっても雰囲気があるいい作品だった。

 

おすすめポイント

◇第12回日本ホラー大賞受賞

◇高学年か読める不思議な怖い本

 

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夜市 (角川ホラー文庫)

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