青りんごの本棚

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乙一『失はれる物語』

中学生に「なにかおすすめの本ないですか?」と聞かれた時に、よくおすすめする1冊。初期作品や書下ろしなど乙一さんらしい作品がぎゅっとつまった短編集。好きすぎて2冊持ってます。はは。


詩人・長田弘さんは『なつかしい時間』の中で「ことば」についてこう語る。
(ことばは)「ないもの、ここにないもの、どこにもないもの、誰も見たことのないもの、見えないもの、そういうものについて言うことができる」

乙一さんは、「ないもの」をことばで存在させる作家さん。長田さんの言葉を借りるなら、言葉の可能性をすごく知っている作家さんなのだと思う。

その点では、この短編集はかなり乙一的であるといえる。まさにないものばかりを書き上げている。「Calling You」では、空想の携帯電話で話し、「失はれる物語」では、妻の存在はその指先でしかわからない。もういないはずの女と暮らす「しあわせは子猫のかたち」。「マリアの指」では、あるはずの指があるはずのないことを証明する。

「ウソカノ」では、うその彼女が登場する。存在しない女の子。
趣味はギターで水泳部。英会話スクールに通い、ミスタードーナツのホームカットとあんぱんが好きな女の子、安藤夏。
思わず、友だちについた嘘は、どんどん大きくなっていく。もちろん、本当はいない。どこにもいない、誰も見たことのないもの、である。それでもことば(文字)を並べれば、彼女はちゃんとそこに存在している。この物語の中に登場するように。

 

 *もくじ*

「Calling You」・・・『きみにしか聞こえない』より 「失はれる物語」・・・『さみしさの周波数』より 「傷」・・・『きみにしか聞こえない』より 「手を握る泥棒の物語」・・・『さみしさの周波数』より 「しあわせは子猫のかたち」・・・『失踪ホリディ』より 「ボクの賢いパンツくん」・・・2015年夏「角川書店ネガティブキャンペーン」賞品に印刷 「マリアの指」・・・『失はれる物語』 「ウソカノ」・・・書き下ろし

 

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失はれる物語 (角川文庫)

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